伊坂幸太郎さんのファンであるわたしが好きな短編を問われたら、「透明ポーラーベア」と答える。
2005年に発売されたアンソロジー本『I LOVE YOU』に収録されていた作品で、わたしは文庫版を買ってからその短編を何度も読み返した。
今回読んだ『パズルと天気』は、そんな「透明ポーラーベア」含めた5編を収録した短編集である。
彼女と動物園を訪れた主人公は、行方不明になっている姉の、元恋人と再会を果たす。束の間の時間を共に過ごしながら、姉の記憶や現在の悩みについて思いを巡らせる。
この作品の魅力は、何といっても主人公の姉の存在感の強さだろう。回想の中にしか登場しないにも関わらず、その強烈な個性が光り輝いている。
作中に、初詣に訪れる参拝客についてこんな言葉が出てくる。
「そう。それで、参拝客の全員がどうして『元日に行こう』としないのか、それが不思議なの」
p111
どんなに混雑する神社でも、参拝客の数は三が日でほどよくばらける。でも、いつか全員が同じ日に同じ場所に行こうとする偶然が起きることもあり得るんじゃないか? という話だ。
これはわたしもたまに考えることで、例えばディズニーランドに行きたいと思う人の数が極端に多い日だってあるはずだろうと思う。もしかすると、みんなが同じ日に同じことをする奇跡だってあるかもしれない。
人との繋がりは簡単に切れることを知っている主人公は、転勤によって彼女との関係が変わってしまうことを恐れている。でも、そんな彼の不安を軽くしてくれるような奇跡だって起こり得るのだ。
なんでこの短編がこんなに好きなんだろうと考えてみたけれど、言語化が難しい。雰囲気が好きと言ってしまえばそれまでなのだが、登場するキャラクターやシチュエーションが刺さるんだと思う。
どうやら、あとがきによるとこの話はけっこう加筆修正されているらしい。20年以上前の作品だし、ご本人としては気になる部分もあるんだろうからしょうがないのかなと。
わたしが最後に読んだのはおそらく10年以上前になる。当時読んでいたバージョンも気になるから、実家に置いてきた『I LOVE YOU』で今度読み比べてみようっと。
本作には、「透明ポーラーベア」を含めて過去にアンソロジーに収録されたものが4編と、書き下ろしが1編収録されている。
20年前から現在まで、長い期間にわたって書かれたものが集められているが、通して読んでみると違和感はなくむしろ集まるべくして集まったような作品たちだと感じる。
どの短編も伊坂さんらしさ全開で、軽快な物語とちょっとした仕掛けが楽しめる読み応えのあるものばかりだ。帯に「幸せな短編集」と書かれている通り、最後の短編を読み終わったときには気持ちがあたたかくなった。

